2012年(一歩前進半歩後退)のイネつくり   山下農園(8月から9月にかけて記す)

 

今年は、農法を前面に出して書いてみましょう。

「無農薬栽培は大変でしょう、むずかしくありませんか?」とよく聞かれます。

その答えは、「旬に作ればそうでもありませんよ」「時にはあきらめる作物もありますが、、、

その中でもイネはいちばん無農薬で作りやすい作物です。20年あまり作ってきて、病気害虫でひやひやしたこともありますが、農薬に頼らなくても、何とかなってきています。

秘訣は、密植にせず広く植えて、陽当たり、風通しのいいイネ作りをすること。それと、たくさん穫ろうと欲をかかないこと。欲をかいて多肥のイネ作りをすると、イネが肥満児になって、病気や虫が付きやすくなります。

ただ畑と違って田んぼで大変なのが雑草。面積が広い土地利用型作物だからです。無手勝流でいくと、イネが雑草に負けてしまいます。代かきという方法は、雑草がない柔らかく、きれいな田んぼに田植えをして、スタートダッシュで差を付けようと言う、雑草対策として編み出した農法なんでしょう。それでも、昔の人は、田んぼの中をはいずり回って「一番草、二番草、三番草」まで取っていたと聞きます。

今無農薬のイネ作りをしている百姓たちにとって、頭が痛いのが、一にも二にも雑草なんです。雑草問題がなくなれば、あとはほとんどへのカッパなんです。

その雑草対策(抑草)で、山下農園にとって、今年は画期的な年になったように思います。

 

「雑草を敵視することをやめよう。イネが雑草に負けなければいいのだ。

田植えされた田んぼの泥の中で、イネの根と雑草の根が主導権争いをしています。イネの根が勝てば、イネはすくすく育ちます。そのうち、雑草はイネの日陰になっておとなしくなっていってくれるはずだ。収量たくさん要らない。雑草と共存しながら、1反(1000u)あたり7俵(420キロ)あれば御の字なのだ」

仲間にそう宣言して、HPで実況中継しながら、イネ作りをしています。

乗用の除草機を持っていますので、それに乗って、適期に除草に入れば何とかなるはずだという作戦です。今年は、冬の間の耕起から、代かき、田植えの仕方まで、イネが元気に育つにはどうしたらいいか、また除草機が入りやすいように、それだけを考えて作業していました。

 

(去年までのやり方)

今まで、いろんな抑草法をやってきました。例えばは「二回代かき方」。表層5センチくらいをねらって、1回目の代かきで雑草の種を表面に浮かび上がらせて、10日ほどおきます。すると泥の表面近くの雑草が芽を切ります。そこをねらって、2回目で発芽した雑草を叩いてしまうです。雑草はたいてい、表層2〜3センチくらいの部分の種が芽を出してきますので、それより深い部分にある寝た子は起こさないようにしようという作戦です。

次に、米ぬか作戦。田植え後米ぬかを田面に散布すれば、米ぬかが分解する時に有機酸を出します。その有機酸が雑草の発芽を阻害します。

その次は、深水作戦。田植えしたあと、30日ほど8センチくらいの深水を保てば、雑草を抑制する効果があります。特にヒエには効果抜群です。

 

(去年までのやり方の弊害)

ところが、教科書通りやっても、雑草は減るどころか、毎年増えて、生えた雑草が種を落とし、年々雑草は増え続けていきました。

考えてみれば、上記のやり方は、たしかに雑草を抑える効果はあるけど、同時にイネの生育も押さえてしまうと言う、二律背反した側面を持っているのです。

2回代かきを意識するあまり、田んぼをドロドロにしてしまっていました。代をかきすぎると、田んぼの泥は酸素のたっぷりある酸化状態から、酸素が少ない還元状態になってします。

近年の田んぼの雑草を見ると、昔悩まされたヒエがほとんど無くなって、コナギやホタルイがのさばっています。ヒエは酸素がある状態を好んで芽を出し、コナギやホタルイはその反対です。稲の苗も、酸素のたっぷりある泥を好みます。その方が早く活着します。

米ぬかも程度問題です。多すぎると、明らかにイネの根にも支障を来しているように見えます。

深水は、明らかにイネの分け(茎数が増えること)を阻害していました。

(今年のやり方)

そこで、今までのやり方を全部洗い直して、イネが欲しがっている方向に、イネに優しい方法にに変えようと思ったのです。

2回代かきはやめました。何度もトラクターで田んぼの中を走り回っている時、こんなに軽油を無駄遣いして、どこが環境に優しいイネ作りだ?と、後ろめたい気持ちを持っていましたが、肩の荷が軽くなりました。また、仕事時間が短くなったのもありがたい。

深水もやめました。その結果水まわりの時間も短くなり、省力になりました。イネも、適度の深さの水で、初期生育が進んだように思われました。それと、近年イネミズゾウムシという外来の害虫が、イネの根をかじるのですが、深水にすると、イネミズゾウムシの被害も大きいのです。

その代わり、ひたすら除草機を活用するための環境整備に心を注ぎました。

手押しの除草機と違って、乗用(4条)ですので、作業後に足が吊ることもありませんし、体はあまり疲れません。しかし、実際に乗ってもらうとよくわかりますが、神経が疲れます。

まず、コースどりがむずかしいのです。田植機が走ったのと同じコースを忠実にたどることができれば、苗を踏むことが少ないのですが、ひとたび間違ったコースに入ってしまうと、除草機ならぬイネ踏み機になってしまいます。

田植機や除草機が方向転換する場所を枕地と言いますが、除草機がターンする時に枕地に植わった苗を踏みちゃんこにしてしまいます。これも大きなストレスでした。

今年は思い切って枕地を植えるのをやめました。

こうすることによって、次にどのコースに入ればいいいか、それがすっきり見えるようになってきました。

これらの手だてで、除草機かけがぐっと快適になり、2反(2000u)を1〜1時間半で済ますことができるようになりました。

また、除草機を走らせることによって、イネの株元の土を攪拌、イネの株元の土に酸素を送り込むという効用もあります。除草機を入れたあとイネの葉っぱにぐっと色が出てくるです。

 

(今年の元気なイネ)

7月下旬に福岡県の環境稲作をしているグループが、姫路市水族館を見学に来ました。ついでに足を伸ばして、林田町のわが田んぼを見てくれました。「雑草も生えているけど、イネが負けずに元気だ」と、ほめてくれました。彼らの田んぼでは、ジャンボタニシが増えて、田んぼの雑草はタニシが食べてくれるので、することがないといいます。肥料も入れることをやめたので、「ただどり稲作だ」と、にやにやしています。それで、6〜7俵はとれると言います。

田んぼには山の落ち葉をくぐった栄養ある水が、莫大に灌漑されます。その水の力と、もともと田んぼが持っている地力で、6〜7俵とれるというのです。

江戸時代の日本の稲作の平均反収は4俵くらいだと言われています。江戸時代とどこが違うのか?とれるお米の重さと同じくらいのワラができるのですが、当時は、ワラは貴重な副産物で、全量持ち出されていました。今は、コンバインという収穫機械があって、全量田んぼに切って戻されています。それが腐熟して、田んぼに地力として貯金されていきます。品種改良もあるのでしょうが、きっとこの地力が大きいのでしょうね。

わが田んぼも、反あたり7俵とれれば御の字、まああまり欲を言わずに6俵くらいはいってくれそうです。

 

(と、ここまで収穫前にいい気で書いてきていて、実際にイネを収穫してみると、とほほの「とらぬタヌキの皮算用」でした)

コンバインという大型機械で収穫します。刈り取りと脱穀作業を結合させたので、「コンバイン」と言うようです。うん百万円もする高価な機械ですので、村に機械組合というのがあってそこの機械で収穫してもらって、その籾を持ち帰って自分ちの乾燥機で乾燥、籾すりをしています。

コンバインで刈ってもらいながら、「あれあれ?とんでもない皮算用をしていたような気がするぞ?」籾の量が例年より格段に少ないのです。

「穂が小さいなあとは思っていたけど、これほど少ないとは?」

実際籾すりを終えてみると、反あたり5俵に届かない有様でした。

とほほ、、、です。結論から言えば、イネは元気だったけど、雑草の元気も萎えるところまでは行かず、雑草に養分を吸われて、小出来なイネになってしまったと言うことでしょうか。

数年前に同じように不作だった時には「情けないな」という気分でしたが、今年は腹の虫が「口惜しいなあ」と言っています。この悔しさを糧に、また「百姓の来年です」